(ニューヨーク)中国政府は1989年の天安門虐殺事件の記憶を抹消する取り組みを強化すると同時に、全国で社会統制を強めていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。
天安門虐殺事件のきっかけは、1989年4月、首都・北京の天安門広場をはじめ中国各地で、学生や労働者などが表現の自由、民主的改革、そして汚職根絶を求めて平和的に集ったことだった。6月3日~4日、人民解放軍の兵士は北京で発砲し、多数のデモ参加者や周囲の人々を殺害した。中国当局は長年にわたり、本土での追悼行為を禁止してきた。犠牲者遺族への情報提供や補償、あるいは殺害の責任者の起訴に向けた措置は未だに取られていない。
「過去を葬り去ることで、中国政府は将来の基本的人権への尊重をも葬り去っている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ中国担当リサーチャーのヤルクン・ウルヨルは述べた。「政府は天安門虐殺事件に関する検閲を止め、追悼行為を許可し、犠牲者遺族に補償を行うとともに、責任追及と法的正義を訴えたことで獄中にある人々を釈放すべきだ。」
2025年12月28日に公安局は北京で、虐殺犠牲者で作るアドボカシー団体「天安門の母」の新年会の開催を2009年の開始以来初めて妨害した。同会は声明で「1989年の学生運動における無実の人々の虐殺について、私たちは政府による誠実な動きを一切見ることがなかった(中略)。それどころか、私たちが目の当たりにしたのは、政府治安部隊が権力を乱用し、市民の正当な社会的権利を妨害するという冷酷な現実なのである!」と述べた。
2026年5月27日、「天安門の母」は107名の会員が署名した声明を発表し、中国政府に対し、「合法的な手段を通じて、平和と理性の精神に基づき、あの事件が残したすべての傷と未解決の不正義に対処し、大切な人を失ったすべての家族に正義と尊厳を取り戻す」よう求めた。
この1年にあった大きな出来事の内一つが、2025年11月に流出した徐勤先少将の秘密軍事裁判を記録した6時間の動画だ。徐少将は、デモ隊への武力行使を命じた指導部の命令を拒んだと長年言われてきた。1990年3月17日に撮影されたこの未公開映像で、徐少将は次のように述べていた。「私は第一に、政治的手段で問題を解決することを望んでいた。(中略)このような行動(武力行使)の正否に疑問を抱いていた。(中略)しかし、私の提案は聞き入れられなかった。命令が下った。(中略)私は指揮官だが、参加したくなどなかった。」徐少将は報道によると5年の刑を宣告され、2021年に死去した。
中国当局は、天安門広場に関連するすべて、特に有名な「タンクマン」の画像を厳しく検閲している。オーストラリアABCニュースは以前、「バナナ1本とリンゴ4個が並んでいる」画像すら、検閲アルゴリズムによって、戦車の列の行く手を阻む一人の男性(=タンクマンのイメージ)への言及としてマークされかねないと報じたことがある。
香港では、30年以上にわたり虐殺追悼集会が毎年行われ、数十万人が集まっていた。香港当局は2020年と2021年に、新型コロナウイルスを口実に毎年恒例の追悼集会を初めて禁止し、2021年には追悼集会を主催していた香港市民支援愛国民主運動連合会(支連会)を強制解散させ、同会が運営していた「六四紀念館」にも閉鎖を命じた。2022年以降、追悼集会の会場だったビクトリア公園では、虐殺記念日前後に「愛国美食嘉年華(フードカーニバル)」なるイベントが開催されている。
5月19日、香港の裁判所は、香港国家安全維持法に基づく「国家転覆を扇動」した罪(最高刑は懲役10年)で起訴された支連会とその元代表2名(李卓人、鄒幸彤)に対する国家安全法に基づく裁判で、最終弁論を終えた。判決は7月に下される見込みだ。
弾圧にさらされるなかでも、虐殺事件をいまだ追悼しようとする香港の人々もいる。2025年の記念日にあたる時期には、香港警察は「治安妨害」の疑いで15歳から69歳の10人を一時拘束し、さらに「不審な行動」を理由に2人を逮捕した。
また警察は、民主派政党「社会民主連線」(現在は解散)のメンバーが、虐殺を追悼するためにビクトリア公園に向かうのを阻止した。
2020年以降、天安門虐殺事件をめぐる香港での検閲は、中国本土で長年課されてきた厳格な統制にますます近寄ってきている。香港フリープレス(HKFP)の報道によると、「1989年6月4日」と解釈されうるナンバープレート「US 8964」を付けた車の所有者は、本人の個人情報やその車の写真、国家安全法違反の疑いがあるとする告発文が書かれた匿名の手紙を複数受け取っている。
2025年、虐殺36周年の直前に、この所有者は車を海外へ送った。そして、香港の状況は「あまりに急速に変化しており、私と家族にとって受け入れがたいところにまで来てしまった」と語った。
近年、世界中のディアスポラ・グループや匿名のソーシャルメディア・アカウントは、公開での討論会・展示・集会を開催したり、文章を発表したりして、当時の弾圧を追悼している。2026年には、オーストラリア、カナダ、台湾、英国、米国など7ヵ国の30を超える都市で追悼行事が計画されている。
天安門虐殺事件後、中国政府は全土で弾圧を行い、「反革命」や放火、社会秩序紊乱などの罪で数千人を逮捕した。
政府は事件について責任を認めたこともなければ、一人の当局者を訴追したこともない。事件の調査も実施せず、死傷者・強制失踪者・収監者のデータも公表していない。「天安門の母」は、北京などで運動弾圧中に殺害された202人の詳しい情報を明らかにしている。
政府は、この虐殺に対する法的正義を求める声を無視してきた。米国政府は虐殺を受けて制裁を実施してきたが、年月とともに弱められたり、回避されたりしている。国際社会が実効性のある制裁措置を講じてこなかったことが、その後の数十年にわたる中国政府の劣悪な人権状況を助長する一因になってきたと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。
中国政府は次のことを行うべきである。
- 表現の自由、結社の自由、平和的集会の自由を尊重し、天安門虐殺事件に関する公式見解に異議を唱える人々への嫌がらせや恣意的拘禁を停止すること
- 「天安門の母」のメンバーと面会して謝罪するとともに、殺害または不当に投獄された被害者全員の氏名を公表し、遺族にしかるべき補償を行うこと
- 天安門虐殺事件とその余波について、独立した公的調査の実施を認め、その結果と結論を速やかに公表すること
- 1989年の一連の事件への関与を理由に国外追放された中国市民の、無条件での帰国を認めること
- デモ隊への致死力の違法な行使を計画または命令した政府・軍関係者全員について捜査を行い、適切なかたちで起訴すること
各国政府は、中国政府に対し、過去の重大な人権侵害に関する責任追及を求める取り組みを改めて行うべきだ。
「中国政府による検閲、威嚇、厳しい弾圧が続くなかでも、世界各地にいる中国と香港出身者は天安門虐殺の追悼を続けている」と、前出のウルヨル局長代理は述べた。「関係国政府はこうした人々の努力を評価し、中国政府に対し、事件の責任を認め、賠償を行い、責任者を処罰するよう強く求めるべきだ。」